ASANOT BLOG / アサノタカオの日誌

編集者。本、旅、考える時間。

神戸新聞を読んで 1

 

2016年6月に神戸新聞にて、週1回の紙面批評の連載(4回)を担当しました。ブログに再掲載します。

 

5月27日、アメリカのオバマ大統領が現職として初めて被爆地・広島を訪問し、核兵器廃絶を訴える演説を行った。その一方で同じ5月、北朝鮮では第7回朝鮮労働党大会が開かれ、金正恩党委員長は、核・ミサイル開発をあらためて強調した。

核なき世界か、核ある世界か。

戦後71年、私たちは岐路に立たされている。大きな歴史上の画期に、戦争を知らない世代の1人として、どう向きあえばいいのだろう。

毎朝、西宮のわが家に届く神戸新聞を開く。5月24日の朝刊社会面には、生後8カ月で被爆した、三木市在住の近藤紘子さんの言葉が紹介されている。「人から人へ伝えていくこと。それが核兵器廃絶につながる」。自分の身近にいる人の痛切な願いの声が、重く心に響く。

私の職業は出版業で、主に文学やアートの本の編集をしている。「人から人に伝えていくこと」は、私自身の仕事でもある。

昨年、原爆投下から70年の節目に、郷里の広島で被爆した詩人・作家原民喜の小説集「幼年画」を刊行した。

戦前の広島を思わせる瀬戸内の風土を背景に、主人公の少年の目を通して、祭りや川遊び、家族や隣人のこと、学校での出来事が語られてゆく。原爆という惨禍によって奪われることになる幼年時代の記憶を、作家は祈るようにして美しく描き出す。

核なき世界か、核ある世界か。

未来を予言することは誰にもできない。しかし、過去を忘れないようにすることはできる。

文学は、作家の類いまれな想像力によって取り返しのつかない世界を「いま、ここ」によみがえらせる。読者は、まるで作品の主人公になったような気持ちで、その世界を生き直すことができる。

5月25日朝刊社会面「初めて原爆を投下された国は? 広島の小中生 正答67%」という記事に驚く。風化する戦争の記憶。「ヘイトスピーチ法成立」という見出しも。民族・人種差別をあおる憎悪表現は、出版界でも問題視されている。

私たちの歴史意識が、今問われている。

最近、政治家などが「未来志向」という用語をよく口にする。だが過去を正視することなしに、未来に責任を持つことなどできない。「伝えていくこと」の重みを感じながら、今日もまた原稿を読み、書物を編む仕事に黙々と取り組む。

サウダージ・ブックスは「ひとり出版者」を卒業します!

 

昨年2015年、私、「サウダージ・ブックス」の淺野卓夫は、ご縁があって香川県の仲間とともに「株式会社 瀬戸内人」という出版・メディア事業をおこなうベンチャー企業を設立しました。

仲間というのは、高松市をベースに雑誌「せとうち暮らし」を制作・発行してきた編集長(当時)の小西智都子、副編集長の山本政子、そして小豆島でアートギャラリーやカフェを運営するMeiPAMの代表・磯田周佑。設立にあたって私たちは、瀬戸内・小豆島でオリーヴ事業を展開する小豆島ヘルシーランド株式会社の出資を受けました。

さて私は、2007年からスタートしたサウダージ・ブックスの出版者・編集者としての経験を活かし、瀬戸内という地域に根ざしつつ、またこの多島海を遊動しながら、あたらしい出版活動にチャレンジしていきたいと考えています。そして、いわゆる「ひとり出版者」を卒業し、心機一転、瀬戸内人の設立メンバーやスタッフとともに、「みんなで」本づくりに取りくんでいこうと思うのです。

瀬戸内人の社内では、「せとうち暮らし」、「サウダージ・ブックス」、そして地域デザイン学会の学会誌など専門書を制作する「空海舎」の3つの出版レーベルがあり、それぞれが発行元になってきました。

このたび「瀬戸内人」は出版者記号(908875/株式会社 瀬戸内人)を取得し、あたらしいかたちで出版者・発行元として船出をすることにしました。

そこで、上記の3つの関連出版者は、新規発行を停止します。そして今後、関連する出版物はすべて「株式会社 瀬戸内人」という共通の旗印のもとで発行し、既刊書は同社が販売管理します。

これからサウダージ・ブックスは、文学や写真・アート関連書を中心に制作する、瀬戸内人社内の編集レーベルとして活動します。

瀬戸内人の取締役・編集者として、また「サウダージ・ブックス」の担当者として、私はこれからも読者のみなさまの人生の時間に寄り添うような善き本を、一冊一冊こころを込めて作っていきたいと願っています。

書物と情報の大海原へ漕ぎだした瀬戸内人というちいさな舟の行方を、みなさまに温かく見守っていただければ幸いです。今後とも、ご指導とご鞭撻を下さいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

2016年7月に株式会社 瀬戸内人より、ローカル発のカルチャー&フィロソフィーマガジン「せとうち暮らし」19号、渋谷敦志写真集『回帰するブラジル』を刊行します。どうぞ、ご期待下さい。

お問合せ:
株式会社 瀬戸内人|サウダージ・ブックス 担当:淺野(あさの)
〒760-0013 香川県高松市扇町2-6-5 YB07・TERRSA大坂 4F
Tel&Fax 087-823-0099
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