ASANOT BLOG

本、ローカル、考える時間。編集者・淺野卓夫(あさのたかお)の日記

神戸新聞を読んで 2

 

2016年6月に神戸新聞にて、週1回の紙面批評の連載(4回)を担当しました。ブログに再掲載します。第2回です。

 

昨年、縁があって香川県の仲間とともに「瀬戸内人」という出版社を設立した。瀬戸内や四国に根ざし、地域の歴史や文化、民俗に学びながら、海辺の生活者の声を伝えるカルチャー雑誌「せとうち暮らし」を発行している。

社内にはサウダージ・ブックスという出版部門もあり、こちらはブラジルやアフリカまでフィールドを広げ、文芸書や写真集を刊行している。現在、私は西宮で暮らし、関西から瀬戸内を俯瞰し、同時に世界を見ながら、書籍や雑誌の制作をしている。

先日、福崎町立柳田國男・松岡家記念館を訪れた。「遠野物語」で知られる柳田国男の生家もあり、学生時代に民俗学を学んだ私にとって特別な場所である。

館内では生前の柳田の肉声を記録した映像が上映されていた。彼が日本各地への調査の旅を振り返りつつ、自身の学問の原点として「祖谷」の地名をあげているのを聞いてうれしくなった。そこは四国のちょうどまん中、平家落人伝説で知られる徳島県の山奥の集落。写真集制作のために何度も訪れた、私にとっても忘れがたい土地である。

さて、神戸新聞のような地方紙を読む楽しみの一つに特集・連載がある。地元記者が地域のさまざまな事件や出来事について、一過性のニュースとして報じるだけでなく、現場を歩きながら粘り強く取材と検証をつづけ、その背景を明らかにする。

5月18日に完結した社会面の連載「乗っ取られた家族 瑠衣とハナ 尼崎連続変死事件の闇」。

男女8人が死亡という多数の被害者を生みだした不可解な事件の裏側にある、人間関係のひずみ。その中でごく普通の生活者が、偶然の積み重ねとささいなきっかけで、いとも簡単に凶悪な犯罪に巻き込まれ、加害者へと転じる心理を読み解く。「人間の業」に迫る、力のこもった記事だった。

5月8日から始まった「遥かな海路 巨大商社・鈴木商店が残したもの」も、読み応えのある連載。「昭和初期の金融恐慌で破綻するが、60社を越える企業を育て日本の産業近代に貢献した。…波乱の歴史と鈴木が残したものをたどり、激動する時代を生き抜くヒントを探る」。

連載を読み進めると、第1次世界大戦開戦後に社員として世界各地を旅した山地孝二が香川県出身であることを知る。そして鈴木商店の大番頭となり、その驚異的な成長を支えた金子直吉高知県出身。四国から海を渡り、神戸にやってきた先人の途方もない冒険に胸が熱くなる。

来年は神戸港開港150年。世界につながる海辺の地ならではの、知られざる物語をもっと読みたい。