ASANOT BLOG / アサノタカオの日誌

編集者。本、旅、考える時間。

温又柔のエッセイ『台湾生まれ 日本語育ち』

 

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https://www.hakusuisha.co.jp/book/b373639.html

 

温又柔『台湾生まれ 日本語育ち』を読む。新書判、白水Uブックスのエッセイ集。出張帰りの新幹線で読んでしまおうと思ったがとんでもない。ことばに住まうとはどういうことか、ことばを旅するとはどういうことか。個人史のみならず、家系という集合的な記憶に織り込まれた複数の狭い道を丹念にたどり直し、温さんはそう問いつづける。さらっと読み流せる本ではない。


中国語、台湾語、日本統治時代の台湾に生まれ育った祖父母の日本語、80年代に東京に来た母親のカタコトの日本語。言語のはざまでゆれうごきながら、温さんは、「国語」から遠く離れたところで世界じゅうの声がひとしく響きあう小さくとも豊かなことばの風景を粘り強く描き出し、それを肯定する。

「国語」の中に、みんなが話すことばの中に、自分の声が見つからないさびしさを抱える、すべての人のために。

数日かけて、ようやく終盤の章「失われた母国語を求めて」まで、たどり着いた。戦前の日本統治時代に日本語で書いた台湾の作家、呂赫若の文学に迫る旅の記述に息をのむ。植民地主義の歴史を、自分自身が抱えることばの問いとして引き受け、読み解いてゆく作家・温又柔にしかなしえない「文学」。そこへ踏み出してゆく覚悟のようなものに触れて、打ち震えている。

『台湾生まれ 日本語育ち』は、90年代に花開いた「越境する世界文学」の思想を一段と深める、画期的な日本語論といえるだろう。私自身のことばの位置を確かめるためにも、これから繰り返し読む本になると思う。

 


後日、写真家の渋谷敦志さんから『The Future Times』の09号をいただいた。巻頭は温又柔さんと、ミュージシャンで同誌編集長・後藤正文さんの対談「私たちを縛る'普通'からの解放」。『台湾生まれ 日本語育ち』も紹介されている。「自分のことを肯定し直せるきっかけ」として小説について、ことばについて考える温さんの発言は、希望だと思う。

 

www.thefuturetimes.jp